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福島地方裁判所白河支部 昭和52年(ワ)136号 判決

原告

添田正徳

ほか一名

被告

添田博

ほか一名

主文

一  被告添田博は原告両名に対し各々、

1  金二八三万二八〇四円と、

2  内金二五八万二八〇四円に対する昭和五二年一一月二日から完済まで年五分の割合による金員と、

3  内金二五万円に対するこの判決確定の翌日から完済まで年五分の割合による金員

を支払え。

二  被告添田英夫は原告両名に対し各々、

1  金二八三万二八〇四円と、

2  内金二五八万二八〇四円に対する昭和五二年一一月三日から完済まで年五分の割合による金員と、

3  内金二五万円に対するこの判決確定の翌日から完済まで年五分の割合による金員

を支払え。

三  原告両名の被告両名に対するその余の請求は、いずれも棄却する。

四  訴訟費用は、これを四分し、その一を被告両名の連帯負担とし、その余を原告両名の負担とする。

五  この判決は、主文一、二項の各1、2につき仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自、

(一) 原告添田正徳に対し金一〇一五万七五五九円及びこれに対する被告添田博については昭和五二年一一月二日から、被告添田英夫については同月三日からいずれも完済まで年五分の割合による金員を、

(二) 原告添田ヒサ子に対し金九四九万一二八四円及びこれに対する被告添田博については同月二日から、被告添田英夫については同月三日からいずれも完済まで年五分の割合による金員を、

支払え。

2  訴訟費用は被告両名の負担とする。

3  仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  被告両名の請求はいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告両名の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故の発生

昭和五二年四月一日午前一時二五分ころ、福島県須賀川市南上町七四番地先路上で、被告英夫運転の普通乗用自動車(以下「事故車」という)が進路前方左側の電柱に激突し、そのため事故車の助手席に同乗していた訴外添田典義(以下「典義」という)は左肺破裂、脳内出血の傷害を受け、同日午前三時一五分ころ、これに因り死亡した(以下これを「本件事故」という)。

2  被告両名の責任

(一) 被告英夫は、酒気を帯び、制限時速四〇キロメートルの道路を時速七〇キロメートル以上の高速度で運転した過失により、ハンドル操作を誤まり本件事故を惹起したものである。よつて、この不法行為により生じた損害を賠償すべき責任がある。

(二) 被告博は、被告英夫の実兄で、事故車を所有し、自己のため運行の用に供していたものである。よつて、自賠法三条により本件事故により生じた人損を賠償すべき責任がある。

3  被害者と原告両名の関係

原告正徳は典義の実父であり、原告ヒサ子は典義の実母であり、典義の権利義務は原告両名が二分の一ずつ相続した。

4  損害

(一) 逸失利益

典義は、昭和三一年一二月一日生れで、本件事故当時満二〇歳であつたから、就労可能年数は四七年間あつたものと考えるべきである。

典義は高校を卒業し、事故当時は須賀川市内のスナツク喫茶「ぼたん」で働いていたが、近々「須賀川ガス」に入社することが内定していた。結局のところ、事故当時の典義の収入を算定することは困難であり、賃金センサスによる全年齢平均給与額により、右四七年間の平均年収は二四七万五六〇〇円として計算されるべきである。

独身であつた典義の生活費は、収入の半分として計算すべきである。

中間利息の控除方法として、四七年間のライプニツツ係数一七・九八一が採用されるべきである。

以上により計算すると、典義は本件事故死により、合計金二二二五万六八八一円相当の労働能力を喪失し、同額の得べかりし利益を逸したことになる。この損害賠償請求債権は原告両名が半分ずつ相続した。

(二) 治療費

典義は本件事故により病院で治療を受け、原告正徳はその治療費として金一〇万五七〇五円を病院に支払つた。

(三) 葬儀費用

原告らは、昭和五二年四月三日典義の葬儀を営み、原告正徳はこれにつき金五〇万円以上支出したが、そのうち金五〇万円を本訴で請求する。

(四) 慰謝料

典義は、原告両名の長男であり、やさしい親孝行な息子であつた。原告両名は、典義の将来に多大の期待を抱いていた。他方、本件事故後被告らは原告両名に対し、何ら誠意を示さない。原告両名の受けた精神的損害を金銭で慰謝するとすれば、一人につき金五〇〇万円を下らない。

5  損害の填補等

原告両名は、被告らから金一一〇万円受け取り、さらに強制保険金として、本来の一五〇〇万円から右一一〇万円を差引いた金一三九〇万円を昭和五二年七月一七日受領し、結局本件につき一五〇〇万円の損害の填補を受けたことになるので、原告各自につき金七五〇万円宛右各損害賠償請求債権に充当する。

6  弁護士費用

以上によれば、被告両名に対し、原告正徳は金九二三万四一四五円、原告ヒサ子は金八六二万八四四〇円の損害賠償債権を有することになる。しかるに、被告両名はこれを任意に支払わないので、原告両名はやむなく本件訴訟代理人に本件訴訟提起を委任し、その着手金を既に支払い、また相当額の報酬を支払う旨約束した。日弁連の規定によれば、その合計額は、原告正徳につき金一五八万二二〇〇円、原告ヒサ子につき一四九万六八〇〇円となるが、本訴においては、原告両名の右債権額の一割、即ち原告正徳については金九二万三四一四円、原告ヒサ子については金八六万二八四四円の支払いを求める。

7  まとめ

以上により算出した金員につき、被告両名に対する訴状送達の翌日(被告博については昭和五二年一一月二日、被告英夫については同月三日)から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを合わせて求めることにし、請求の趣旨記載のとおりの判決を求める。

なお、本件事故に至る経緯として次の事情を付加する。典義と被告英夫とは、小学校から高校まで同じ学校の同学年で、高校卒業後地元に残つたのは二人だけだつたため、かなり親しい付合いをしていた。典義は、昭和五〇年春高校を卒業したが、仲間が皆都会に出たのに両親のことを思いやつて地元に留つた。しかし、田舎のことゆえ適当な職場がなく、昭和五〇年八月から須賀川市所在のスナツク喫茶「ぼたん」に約半年間勤務し、その後羽鳥湖の太平洋クラブのレストランに一年間位勤務し、同レストラン閉鎖後再び右「ぼたん」に勤務した。典義は水商売が嫌いで、近々「須賀川ガス」へ入社することが内定しており、入社目前にして本件事故に遭つたものである。

事故当時英夫は無職で暇だつたため、事故の前夜即ち昭和五二年三月三一日の午後一一時ころ右「ぼたん」に典義を迎えに来て、一緒に矢吹方面に遊びに行こうと強く誘つた。当夜典義は別の友人の所へ行く予定であつたが、少し付き合つてやれば被告英夫の気が済むかと思い、友人との予定を断わつて、被告英夫に付き合つたものである。

二  請求原因に対する認否(被告両名共通)

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の(一)の事実は争う。

同2の(二)の事実中、被告博が被告英夫の実兄であることは認め、その余は否認する。事故車は、英夫が購入し、自ら通勤のため使用していたものであり、被告英夫が未成年で購入手続が複雑になるため、被告博の名義にしただけである。被告博は事故車の運行供用者でない。

3  同3の事実中、原告両名が被害者典義の両親であることは認めるが、その余は不知。

4  同4の(一)の事実中、典義の生年月日及び同人が高校を卒業し、事故当時「ぼたん」に勤務していたことは認めるが、その余は不知。

同4の(二)の事実中、典義が治療を受けたことは認めるが、その費用額は不知。

同4の(三)の事実中、葬儀年月日は認めるが、その費用等については不知。

同4の(四)の事実は不知。但し、被告らが誠意を示さなかつたとの主張は否認する。

同5の事実は争わない。

同6の事実中、弁護士に委任した点は認めるが、その余は不知。

同7において事情として付加した事実中、典義と被告英夫との関係、典義の就職状況(但し、「須賀川ガス」の件は除く)、被告英夫が事故当時無職であつたことは認めるが、その余は不知ないし争う。

三  被告両名の反駁及び損害の填補の抗弁

1  過失相殺及び好意同乗

本件交通事故の発生に関し、典義に以下の事情があるので賠償額の算定に際し斟酌されるべきである。

事故当夜、典義は「ぼたん」において、被告英夫が自動車を運転することを知悉しながら飲酒するよう勧め、旦つ、同被告が飲酒していることを知悉しながら同被告運転の事故車に同乗した。典義は、当夜同僚の訴外佐久間初枝と会う約束になつており、その用件のため同被告を付合わせたものである。また、三人でドライブした際には初枝が運転し、その間同被告は後部座席で横になつて眠つていたのに、初枝が降車後、典義は態々同被告を揺り起こし、自宅まで送り届けて欲しい旨申し向けた。しかして、被告英夫は、典義を自宅まで送り届けようとして運転していた際に、急に道路に飛び出した猫を避けようとしてハンドル操作を誤まり、自車を電柱に衝突させ、本件事故を起こしてしまつたものである。

右によれば、賠償額は、本件事故により生じた損害の五割程度に減額されるべきである。

なお、被告英夫が飲酒のうえ運転していることを事故当時典義が知つていたことを、原告両名は当初訴状陳述により自認したのに、後にこれを撤回したが、この撤回については異議がある。

2  損害の填補

請求原因5において、原告両名が自認するとおり本件事故による損害につき原告両名は既に一五〇〇万円の填補を受けており、さらに、この他にも、典義の治療関係費ということで強制保険手続を通じて一〇万三七五五円を受領し、損害の填補を受けている(弁論の全趣旨により善解)。

四  被告両名の反駁・抗弁に対する認否等

1  1の反駁については全面的に争う。事故当夜典義は「ぼたん」において、カウンターの中に入つたきりであつたから、カウンターの外に出て被告英夫に酒を勧めることなど出来ず、また客として来た同被告がどのような飲食をしたのか知る由もない。また事故当時の被告英夫の顔色や言動からも同被告が酒を飲んだ様子が窺えず、典義は同被告の飲酒を知らなかつた。当夜典義は友人のやつているスナツク「青い鳥」に行く予定だつたが、被告英夫に誘われて付き合つたものである。事故は、自分の帰宅を急いだ被告英夫が高速度運転したためで、典義には全く落度がない。

2  2の損害の填補に関して、一五〇〇万円の限度で認め、その余は争う(弁論の全趣旨により善解)。

第三証拠〔略〕

理由

一  交通事故の発生

請求原因1記載のとおりの本件事故が発生したことは、当事者間に争いがない。

二  被告両名の責任

1  被告英夫の責任原因

成立に争いのない甲第一ないし第九号証及び同第一二号証の一ないし四を総合すると、被告英夫には、本件事故の際酒気を帯び指定最高時速四〇キロメートルの道路において夜間時速約七〇キロメートルの高速度で運転した過失があり、この過失により安全な避譲措置ないし的確なハンドル操作を採り得ず本件事故を発生せしめたことが認められ、この認定を覆えすに足りる証拠はない。よつて、被告英夫には民法七〇九条ないし七一一条所定の賠償責任がある。

2  被告博の責任原因

原本の存在及び成立につき争いのない乙第二、第三号証並びに弁論の全趣旨によれば、被告博は被告英夫の実兄であり、且つ事故車の所有名義人であることが認められる。

しかるに、被告博は、事故車購入時被告英夫が未成年であつたため便宜自己の名義を貸したにとどまり、実質的な購入者、所有者、使用者はいずれも被告英夫であるから、被告博は事故車の運行供用者ではない旨反駁する。よつて按ずるに、なるほど、前掲各書証によれば、事故車の購入資金や諸経費は主として(事故当時被告英夫が若輩且つ無職であつたこと等に照らして、全部とは容易に認められない)被告英夫が負担し、且つ主として被告英夫が事故車を使用していたことが一応窺える。しかし、そうであるとしても、態々被告博が事故車の所有名義人になつたのは、被告英夫に資力及び信用の面で欠けるところがあつたためであると容易に推認され、且つ実の兄弟であつて近くに居住するのであるから、他に格別の事情があつて被告英夫の運行に対し支配を及ぼしえなかつたと認めるべき証拠が全くない以上、被告博は社会通念上被告英夫の運行に対し支配を及ぼしうる立場にあり、且つ事故車を直接間接に支配管理すべき責務があつたものと認められる。そうであれば、他に格別の主張立証もない以上、本件事故に際し、被告博は自己のため事故車を運行の用に供していた者であるという他ない。よつて、被告博には自賠法三条所定の賠償責任がある。

三  原告両名の地位

原告両名が被害者典義の両親であることは、当事者間に争いがなく、これにより典義の権利義務は原告両名において二分の一ずつ相続したものと推認され、この推認を覆えずに足りる証拠はない。

四  典義の逸失利益

典義が昭和三一年一二月一日生れで、本件事故当時満二〇歳であつたこと、高校を卒業し、本件事故当時須賀川市内のスナツク喫茶「ぼたん」に勤務していたこと、独身であつたこと、以上の事実は当事者間に争いがない。

原告両名の各本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、典義は高卒後地元にとどまることにしたが、直ちに適当な就職先が見つからず、昭和五〇年八月から半年ぐらい右「ぼたん」に勤め、その後羽鳥湖の太平洋クラブのレストランに一年ぐらい勤めたが、このレストランが閉鎖されたため、再び「ぼたん」に勤め、同店に約四カ月勤めて本件事故に至つたこと、典義は水商売が嫌いで、夜遅い勤務であつたため、本件事故がなければ近々「須賀川ガス」というプロパンガスも扱つているガソリンスタンドに職場を変える予定であつたこと、「ぼたん」において典義は、毎月大体手取りで一一万円ないし一二万円の収入を得、この他に年一、二回小遣い程度のボーナスと毎月二〇〇〇円ないし三〇〇〇円程度の大入袋の支給を受けていたこと、「須賀川ガス」に移つた場合には「ぼたん」よりも収入が減り月七万円ないし八万円程度の収入となつたであろうこと、以上の事実が認められ、この認定を覆えずに足りる証拠はない。

他方、公刊の統計資料上、典義は本件事故がなければ六七歳まで、即ち本件事故時から四七年間稼働しえたものと予測推認される。

前認定にかかる典義の死亡前の職歴、職種等の稼働状況並びに本件事故がなかつた場合の転職とその際の得べかりし収入、並びに公刊の統計資料上昭和五一年の産業計全国高卒男子の年間給与額が全年齢平均で二四八万〇五〇〇円、一八歳から一九歳の平均で一一九万九六〇〇円、二〇歳から二四歳の平均で一六九万六八〇〇円であることなどを総合斟酌すると、典義の場合前記四七年間平均して、右全年齢平均額である二四八万〇五〇〇円の収入を得たものと推認し難く、これよりやや低く、右四七年間平均して年二二〇万円の収入を得たものと推認するのが相当と判断する。

そして、独身であつた典義の生活費を収入の半分としてこれを控除すべきこと及び四七年間に亘つて得る収入の中間利息控除としてライプニツツ係数一七・九八一を採用すべきことは、原告らが自ら主張するところであつて、当裁判所も相当と考えるので、以上により典義の逸失利益を年平均二二〇万円として計算すると、一九七七万九一〇〇円となる。

五  治療費等

典義が本件事故により病院で治療を受けたことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第一三号証の一、二及び弁論の全趣旨によれば、右病院関係諸費用として原告正徳は金一〇万五七〇五円の出捐をしたことが認められる。

六  葬儀費用

原告両名の各本人尋問の結果、弁論の全趣旨及び公知の事実たる現今の葬儀費用の相場を総合すると、昭和五二年四月二日に典義の通夜があり、翌三日同人の葬式があり、原告正徳はこれにつき少なくとも金五〇万円の出捐をしたものと認められる。

七  過失相殺及び好意同乗について

1  前掲甲第一ないし第九号証及び同第一二号証の一ないし四、成立に争いのない同第一〇号証及び同第一四ないし第一六号証、証人佐久間初枝の証言、原告両名の各本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、本件事故に至る経緯として次の事情が認められ、右証人佐久間初枝の証言及び原告両名の各本人尋問の結果中この認定(の趣旨)に反する部分は右その余の各証拠に照らし措信し難く、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

(一)  被告英夫と典義は同学年で、小学校から高校まで同じ学校に通い、同窓生で地元に就職したのは両名だけということもあつて、本件事故に至るまで非常に親しく交際していた。

(二)  被告英夫は、高卒後須賀川市内の「赤トリキ」というデパートに約一年間勤めた後、同市内の「須賀川総合会計センター」に転職したが、本件事故前にも人身事故を起こし、酒気帯び運転をするなどし、右人身事故の支払い関係及び勤務不良等の理由で本件事故の約一〇日前である三月一九日に右「会計センター」を辞めさせられたものである。したがつて、自動車の運転態度も平素の生活態度も堅実良好ではなかつたものである。

(三)  本件事故直前、暇をもて余した被告英夫は平素以上に頻繁に「ぼたん」に出入りし、日によつては一日に何回も出入りするほどで、平素の親交及びこれらの事情により、本件事故当時典義は被告英夫の右(二)記載の職歴、運転態度、生活態度を熱知していたものと推認される。典義は被告英夫の右行状等につき両親である原告らに話したことがある。

(四)  本件事故直前の三月三一日、被告英夫は暇をもて余し、午前一一時ころ「会計センター」の先輩に電話して、同日午後六時に「ぼたん」で会うことを約束し、雑用ないし所用を済まして午後六時過ぎころ事故車を運転して「ぼたん」に赴いた。

(五)  しかして、被告英夫は同日午後六時半ころ「会計センター」の先輩二名と同店で合流し、午後八時ころまで同店のボツクスで雑談するところとなり、その際被告英夫はジントニツクを二杯飲み、顔が赤くなつてかなり酔い、他方先輩二名はいずれもハイボールを飲んだ。これらの飲み物は典義がカウンター内で調合したものである。

(六)  他方、同日は「ぼたん」の給料日であつたところから、典義は同店のウエイトレスである訴外佐久間初枝を同夜何処かに食事に行こうと言つて誘い、同女の勤務は午後七時か八時ころまでであるが、典義の勤務は午後一一時ころまでであつたため、勤務が終つた後典義が同女宅まで迎えに行く旨の軽い口約束が同店内でなされた。同女は被告英夫の来店に気づいていたが格別言葉を交さず、勤務を終えると一足先きに同店を辞した。

(七)  典義と初枝は右以前にも何度か同様の交際をしており、被告英夫も二、三回これに加つたことがあつたが、初枝とは飽くまで典義を通じて顔見知りということで同女と特に親しい仲ではなかつた。

(八)  (五)のとおり先輩二名と飲食した折、被告英夫は、典義から給料日なのでおごると言われ、(六)の事情もあつて、結局被告英夫が午後一一時ころ同店まで典義を迎えに来て事故車で一緒に初枝方に赴く手筈となつた。

(九)  被告英夫は、同日午後八時過ぎ典義に「また来る」と言つて同店を辞し、事故車を運転して婚約者方に赴き、婚約者の誕生パーテイに参加し、同所ではワインを少々飲むにとどめ、午後一〇時半ころ同所を辞し婚約者の運転で途中まで送つて貫い、婚約者と別れた後、午後一一時過ぎころ「ぼたん」に戻つた。「ぼたん」に行くと、典義が店の前で待つており、直ちに事故車に典義を乗せ、初枝方に赴いた。「ぼたん」と須賀川市芦田塚所在の初枝方とは徒歩約三〇分の距離であるが、初枝は平素自ら運転して自動車で通勤していた。典義は運転免許をもつていなかつた。

(十)  被告英夫と典義が初枝方に着いて間もなくの午後一一時半ころ、同女方を出発し、三人で食事に行くべく深夜のドライブが開始されたが、被告英夫が眠そうだつたので初枝が事故車を運転することになり、典義が助手席に乗り、被告英夫は後部座席に乗つた。

(十一)  初枝方を出発すると間もなく、被告英夫は酒酔いのせいもあつて横になつて眠つてしまい、以後再び初枝方に戻るまでずつと眠つていた。

(十二)  被告英夫が眠つてしまつたので、初枝と典義の二人で「いつも行くラーメン屋ではないところに行こう」などと言いながら国道四号線を南下して矢吹町まで来たが、開いている店がないので結局戻ることにし、途中自動販売機でコーラを買つて二人で飲むなどした後再び初枝方に戻つた。

(十三)  初枝方に戻つても被告英夫が眠つたままだつたので、同女は車内で若干典義と雑談した後被告英夫には別れの挨拶もせずに自宅に入つてしまつた。

(十四)  初枝が自宅に入つてしまつたので、典義は眠つていた被告英夫を起こし、帰ることを促し、かくて被告英夫が事故車を運転して両名の居住する鏡石町に向つて間もなく、未だ須賀川市内にある間に本件事故が発生した。

(十五)  本件事故直後被告英夫の吐息は酒臭く、そのため警察官により事故直後呼気検査がなされ、その結果いわゆる酒気帯び運転のアルコール量を身体に保有するものと測定され、これについて有罪判決が確定した。

2  右認定事実及び前掲各証拠を総合すると、典義は、本件事故前被告英夫が飲酒しかなり酔つていることを熟知しながら、その運転にかかる事故車に同乗して佐久間初枝方に赴き、前記のとおり結局空しいドライブを終えて、再び被告英夫運転により両者の住む鏡石町に向かう帰路についたものと認められる。前記のとおり、証人佐久間初枝の証言中この認定の趣旨に反する部分は同女の検査官及び司法警察員に対する供述調書(甲第六、第七号証)並びに前認定のとおり、被告英夫が「ぼたん」で飲酒した際、典義は被告英夫と言葉を交わしており、しかも飲み物を調合したのは典義自身であること等に照らして措信し難く、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。しかして、被告英夫の酒気帯び運転の原因たる酒類を提供し飲ませたのは典義自身といえるところ、前認定のとおり被告英夫が酒気を帯びていた過失が本件事故の発生と因果関係を有すると認められる以上、本件事故の発生につき典義にも賠償額算定に際し斟酌すべき相当の過失があつたという他ない。

3  また、前認定事実によれば、本件事故直前の初枝を含めて三人の深夜のドライブは、元来典義と初枝との二人の約束に典義が被告英夫を誘つた結果成立したものである。典義のこの勧誘の主たる意図が何処にあつたのか定かでないが、深夜の交遊であり、「ぼたん」と初枝方が必ずしも近距離といえないこと、自分は運転できないことなどに照らせば、被告英夫の事故車で「ぼたん」から初枝方まで送つて貰い、三人の交遊(証拠上、初枝も車を有するようなのでこの交遊自体に事故車がどうしても必要であつたのか否かは定かでない)後、初枝方から自宅まで送つて貰うことを期待したものと推認され、少なくともこのような期待が全くなかつたとは考えられない。いずれにせよ、典義が被告英夫を深夜のドライブに誘つたものであり、ドライブの趣旨及び実際の経過に照らせば、ドライブ中事故車の運行支配及び利益は主として典義と初枝に委ねられていたといえる。そして、前述のとおり事故車で初枝方に赴いた以上、ドライブ後初枝方から二人で事故車で鏡石町に帰ることは殆んど必然のことであつて、実際の経過もそのとおりであつた。事故直前眠つている被告英夫を典義が起こしたのは、被告英夫のためというよりも、主として自分が鏡石町の自宅まで早く帰りたかつたからと推認され、これを覆えすに足りる証拠はない。これらのことを考え合わせると、少なくとも賠償義務者である被告両名との関係においては、典義もまた本件事故の際事故車の運行の支配及び利益を有していた者という他なく、(典義の「他人性」ないし被告らの「運行供用者性」が割合的に阻却されると解するのと結局同じであるが)信義衡平の観念に照らし、賠償額算定に際しこれを斟酌しなければならない。

4  以上の過失相殺事由及びいわゆる好意同乗の経緯を総合斟酌するとき、慰謝料を除くその余の全損害につき三割減額して賠償額を定めるのが相当と判断する。また、慰謝料額算定についても、右のことを然るべく斟酌する。

八  慰謝料について

以上の認定事実及び弁論の全趣旨を総合すると、典義の死亡により原告両名の受けた精神的損害を金銭をもつて慰謝するには、各自金三〇〇万円をもつてするのが相当と認められる。

九  計算及び損害の填補

1  以上により、典義の前記逸失利益についての賠償額を計算すると金一三八四万五三七〇円となり、前記治療費についての賠償額を計算すると金七万三九九三円五〇銭となり、前記葬儀費用についての賠償額を計算すると金三五万円となる。以上合計は、一四二六万九三六三円五〇銭となる。

2  ところで、原告両名が本件につき既に少なくとも金一五〇〇万円の損害の填補を受けていることは当事者間に争いがなく、さらに前掲乙第二号証によれば、右の他に原告両名は治療関係費として金一〇万三七五五円を強制保険手続から受領したものと認められ、この認定を覆えすに足りる証拠はない。以上合計一五一〇万三七五五円の損害の填補は、まず右1に算出した金員に充当し、その残余を等分して前記慰謝料に充当することとする(原告らの請求及び充当方法と若干趣きを異にするかもしれないが、結果的に原告らの利益を実質的に害することは全くなく、法律上はもとより許されると解する)。これを計算すると、結局、原告両名は各自二五八万二八〇四円(円未満四捨五入により切捨て)の慰謝料債権を有することになる。

一〇  弁護士費用

被告両名が右認定にかかる賠償義務を任意につくさないので、原告両名が本件訴訟代理人に本件訴訟提起・追行を委任したことが当裁判所に顕著であり、右代理人に着手金、報酬を支払うことも弁論の全趣旨により明らかである。本件事案及び本件訴訟の経緯を総合すると、各原告の前記認定債権額の約一割にあたる金二五万円、合計五〇万円の弁護士費用につき、被告両名は賠償すべき義務があると認められる。

一一  結論

以上のとおり、原告両名の請求は、各自金二八三万二八〇四円及び各内金二五八万二八〇四円についていずれも被告両名への各訴状送達の翌日(その年月日は当裁判所に顕著である)から、各内金二五万円についていずれもこの判決の各確定の翌日から(既に着手金を払つたのであろうがその額等が証拠上明らかでないので訴状送達の翌日から認めることができない)いずれも完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を被告両名がそれぞれ支払うよう求める限度で理由があるので、これを認容し、その余を失当として棄却し、訴訟費用につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条を(但し、弁護士費用については仮執行を相当と認めない)各々適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 伊藤剛)

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